私たちここち編集部は、「ここち」というメディアで、忙しい日常の中で等身大で生きていくためのヒントを発信しています。
そんな活動の中で「自分たちもウェルビーイングや日本人の幸福感について日々継続して学び研究していくことで、読者のみなさんをよりサポートできる発信ができるのでは?」と考えました。
今後は、さまざまな研究者や著者が語る”幸福”や”ウェルビーイング”について、編集部メンバー同士で学んだ内容を発信していきます。(学び一覧は「ここちラボ」を見てね!)
第1弾として、課題図書 『これからの幸福について 文化的幸福感のすすめ』(2019年・内田由紀子著/新曜社) を読んで得た知識や考え方、より興味が湧いた内容をこの記事で紹介します。
そして、気になった内容については半歩踏み込んで、ちょっとした検証も行ってみたので、ぜひご一読ください。
編集部メンバー:プロフィール紹介
青木くん
19年卒。4年間ソフトウェア商社で技術職として働いた後、海外留学をしたり先生になってみたり、生きたい人生を自由に歩んでいます。今はコーチとして目標設定や思考の言語化などをお手伝いしています。ここちサポーターとしても活動。MBTIは広報運動家(ENFP)。
かーしー
19年卒。2025年3月に転職して、IT企業に就職、2ヶ月で早期離職。最近ハマっているのは哲学対話で、次に対話したい哲学対話のテーマは「お母さんの味って何?」。MBTIは仲介者(INFP)。
課題図書『これからの幸福について』の内容と日本的幸福観のヒント
今回、私たちここち編集部が課題図書として選んだのは 『これからの幸福について 文化的幸福感のすすめ』(2019年・内田由紀子著/新曜社) 。本書は、幸福とは何か?という普遍的な問いに対して、日本人の幸福感の特徴や、文化的な背景による違いをアカデミックに解説していく一冊。
著者の内田由紀子さんは、京都大学の人と社会の未来研究院の教授であり、文化心理学・社会心理学を専門とされている方。特に日本社会における「幸福」の捉え方について日々研究されています。
本の概要
「幸せ」って、なんだろう? この本は、そんな身近な問いに「文化」という新しい視点から光をあててくれる一冊だと思います。
例えば、個人の能力を伸ばして競争に勝って、成功を手にすることを重視するような欧米的な幸福感だけではなく、私たち日本人が昔から大切にしてきた「幸せの感じ方」や価値観がどんなものなのかを、さまざまな研究や面白い事例を交えながら、分かりやすく説明してくれる一冊です。

この本で興味深いのが、欧米と日本で見られる「人間関係の捉え方」の違いです。欧米で多いのは、一人ひとりが独立した「個人」として、自分の力で目標を達成していくことに幸せを見出す考え方(相互独立的自己観)。
それに対して日本では、人は周りの人や社会との「つながり」の中にいる存在と捉え、みんなと調和したり、誰かの役に立ったりすることに幸せを感じる傾向があるとのこと(相互協調的自己観)。

この違いを知ると、私たちが何気なく感じている感覚の理由が、すとんと腑に落ちるかもしれません。例えば、本書で紹介される「気持ち主義的人間観」。これは、単なる結果や能力だけでなく、そこに至るまでの努力や「どんな気持ちで臨んだか」という過程を大切にする、いかにも日本らしい考え方です。
また、良いことが続くと少し不安になったり、「良いことも悪いこともあるのが人生だよね」と考える「バランス志向的幸福感」も、多くの人が共感できる感覚ではないでしょうか。
本書は、そうした自分でも気づいていなかった、心の中にある「幸せの物差し」を見つめ直すきっかけをくれる、そんな一冊かなと思います。
日本人によく見られる「バランス志向的幸福感」

まず、本書の中で指摘されていた「バランス志向的幸福感」 が興味深いという話になりました。著者によると、日本人の幸福感として「良いことと悪いことが同時に存在するのが真の人生である」という考え方がある、とのこと。
かーしー:「確かに、”楽あれば苦あり”って言葉もあるよね」
青木くん:「逆に、”明けない夜はない”とか、いつかは報われるっていうニュアンスもあるよね」
著者によると、日本人は「良いことがありすぎる」ような極端な幸福を求めるのではなく、調和や安定を重視する傾向があるとのこと。
確かに、ラッキーなことが続くと「何かにつまづきそう…」とネガティブな出来事を予想したり、逆に失敗続きだと「もう少しで運が自分に向くかも?」と楽観的に思えたり。幸せと不幸せは交互に来るイメージを持つ人が多いのかもしれないです。
日本人に多い?「気持ち主義的人間観」とは

もう一つ興味深かったのは 「気持ち主義的人間観」 という概念。これは、日本では「能力や成果」だけでなく 「どのような気持ちで取り組んだのか」「どのような努力をしたのか」 という、経過の部分が評価の対象になるという考え方です。
なぜ日本では気持ちが重視されるのか、文化的背景を知る

そもそも、なぜ日本ではこんなにも「気持ち」が大切にされるのでしょうか? そのヒントは、私たちが普段何気なく触れているテレビや新聞などの「文化的産物」の中に隠されているようです。
『これからの幸福について』では、オリンピック選手に関する日本とアメリカのメディア報道を比較した、非常に興味深い研究が紹介されています。
アメリカの報道
「選手の能力や性格」「ライバルとの競争」といった、個人の強さやパフォーマンスに焦点を当てる傾向が強い。
ヒーローのポジティブな側面が強調され、「つらい経験をした」といったネガティブな要素はあまり語られない。
日本の報道
「今のお気持ちは?」という質問に代表されるように、「選手の感情」に深く迫ろうとする。
ライバルだけでなく、ファンや家族といった「他者」との関係性が、選手の大きなモチベーションとして描かれる。
強い選手であっても、過去の敗北や弱さといった、肯定的な面と否定的な面の両方に光をあてる。
この違いは、まさに「気持ち主義的人間観」が日本社会に根づいていることの表れだと言えるのではないかと思います。私たちは、選手のパフォーマンスそのものだけでなく、その裏にある想いや努力、そして周囲とのつながりを含めた「物語」全体に心を動かされる傾向がありそうです。
この「気持ち主義的人間観」の部分を読んでいく中で、
かーしー:「この気持ち主義的人間観、日本文化に反映されてたりする?」
そんな疑問が浮かんだので、今回は漫画・コミックスを舞台に「気持ち主義的人間観」をテーマとした、ちょっとした仮説検証を行ってみることにしました。
日本人の人間観は漫画に表れている?|キャラの描かれ方から見える傾向

日本の漫画を読んでいると、主人公が努力を重ねて成長する姿に心を動かされることが多いですよね。修行して技を習得したり、何度も壁にぶつかりながらも仲間とともに強くなっていったり。そんなシーンに、胸を熱くして応援したくなる。
一方で、アメリカのコミックスはどうなのでしょうか?正直、慣れ親しんでいるわけではないですが…
スーパーマンやスパイダーマンのように、突然すごい力を得るキャラクターが多い印象があります。「強い力をどのように使っていくか」「自らの使命は何なのか」と葛藤しているイメージ。努力の過程よりも、得た力をどう扱うか に重きが置かれているようにも感じます。
この違いは、もしかすると 日本の「気持ちを重視する文化」と、アメリカの「結果や行動を重視する文化」の違い に関係しているのではないか?
そこで私たちは「日本の漫画とアメリカのコミックスでは、キャラクターの成長描写や内面描写に違いがあるはず」 という仮説を立てて、検証してみることにしました。
検証:日米漫画を比較して見えた違い|キャラクター成長の型と描き方のギャップ

仮説を検証するために、2022年の人気作品ランキング をもとに、日本とアメリカの漫画・コミックスを比較しました。具体的には、以下の2つのランキングからそれぞれ上位10作品を選定しました。(直近のデータにしたかったのですが、データが揃っているのが2022年でした…!)
日本の漫画 → 「2022年 ブックライブ年間ランキング」
アメリカのコミックス → 「2022年 Comichron 年間ベストセラーランキング」
このリストをもとに、各作品を キャラクターの成長描写や内面描写の違い という観点で分析しました。
比較項目 | 説明 |
|---|---|
成長タイプ | キャラクターの成長の仕方を3タイプに分類 |
①修行型 | 努力や修行を経て成長する |
②一夜型 | 突然能力を獲得する |
③日常型 | 日常生活の中でスキルアップする |
修行描写 | 明確な修行・訓練シーンがあるか |
修行期間 | 短期・中期・長期、またはなし |
内面描写の量 | 「多め」「普通」「少なめ」に分類 |
内面描写の主なテーマ | キャラクターが向き合う感情や葛藤の種類 |
これらの観点で、日本とアメリカのコミックス作品を比較してみて、登場するキャラクターの成長物語の描かれ方にどのような違いがあるのか、AIを活用しながら検証してみました。
検証結果:日本は「修行型」、アメリカは「一夜型」が多い

比較の結果、以下の傾向がみられました。
① 日本の作品は「修行型」、アメリカの作品は「一夜型」
日本の漫画は「努力と成長」の描写が重視されていて、キャラクターが試練を乗り越えるプロセスが詳細に描かれる傾向あり。
一方、アメリカのコミックスでは、突然強くなる「一夜型」が多く、能力の獲得そのものではなく、その力をどう使うか(責任・正義)がテーマになることが多いようでした。
例えば…
作品名 | 国 | 修行描写 | 修行期間 | 成長タイプ |
|---|---|---|---|---|
呪術廻戦 | 日本 | あり | 長期 | 修行型 |
ONE PIECE | 日本 | あり | 長期 | 修行型 |
スパイダーマン | アメリカ | なし | なし | 一夜型 |
スーパーマン | アメリカ | なし | なし | 一夜型 |
※今回調査した作品全ての比較結果は、こちらのスプレッドシートをご覧ください。
② 日本は「仲間との絆」、アメリカは「ヒーローの孤独」
また、日本の漫画では主人公が仲間と共に成長して、努力を積み重ねるシーンが多いのに対し、アメリカの作品は「ヒーローの孤独」や「使命感」が強調される傾向がみられます。
青木くん:「いきなり蜘蛛に噛まれた高校生がスパイダーマンになって、ニューヨークを救ったり、とかアメリカっぽいね」
かーしー:「逆に、ONE PIECEのエースが死んじゃった後、麦わらの一味が2年間修行するシーンとかは、日本っぽいシーンかも」
青木くん:「それでいうと、NARUTOでもナルトが自来也と修行したり、ハイキュー!!でも春高に出場するために朝から晩まで部活してたり…」
検証結果をまとめると
ということで、まとめるとこんな感じです。
日本の作品:「気持ち主義的人間観」に基づき、努力・成長・仲間との関係を重視
アメリカの作品:「ヒーロー像」に基づき、正義・孤独・使命を強調
考察:ヒーロー像の価値観の違い
孤独な使命を背負うアメリカのヒーロー

かーしー:「なんか、アメリカって”世界の警察”って呼ばれてたりするよね。その考え方が、ヒーロー文化に影響してそうな気がする」
青木くん:「ノブレス・オブリージュって考え方もありそうだね。」
編集部の議論の中で、「アメリカのヒーロー文化は、ノブレス・オブリージュ(貴族の義務)の影響を受けているのではないか?」という話も上がりました。
ノブレス・オブリージュとは、「力ある者は、弱き者を守る義務がある」という考え方。アメリカのコミックスで描かれる「一夜型」のヒーローは、まさにこの価値観を体現しているのかもしれません。
ある日突然、特別な力を手に入れた主人公が、その強大な力に伴う「責任」と「使命」に悩み、葛藤しながらも孤独に戦い続ける。ハリーポッターも「生き残った男の子」と呼ばれて孤独に苦しむ様子が多々あったな、と改めて思ったりします。
ヒーローの姿を見て守られる側の人々は感銘を受けますが、孤独に悩むヒーローの姿は、個人の力を重視する「相互独立的自己観」が色濃く反映されているように感じられます。
みんなの想いを背負って成長する日本の主人公

一方で、日本の漫画に多く見られる「修行型」の主人公はどうなのでしょうか…。彼らは最初から特別な存在ではなく、仲間との出会いや別れ、そして厳しい修行といった経験を通じて、少しずつ成長していく様子が多く描かれるな、と改めて感じました。
ワンピースのルフィもイーストブルーの風車村の小さな男の子で、NARUTOのうずまきナルトも嫌われ者の忍者見習いで、ハイキュー!!の日向もバレーボールが好きな背の小さい中学生で、最初はありふれた存在。
でも自分の未熟さを痛感して、出会いや修行を大切にして、少しずつ強くなっていく。そして最初の主人公の力では叶わなかった奇跡を、仲間とともに現実にしていく。
これは、結果だけでなく過程や気持ちを大切にする「気持ち主義的人間観」や、人とのつながりを重視する「相互協調的自己観」に基づいているのかなと感じます。
日本の主人公は、自分一人の力で戦うというより、仲間や先生や師匠、時にはライバルの想いも背負って、みんなの代表として強くなっていく。その物語に、私たちは共感して心を動かされるのかもしれません。
もっと研究を広げるなら…

今回の研究を通じて「気持ち主義的人間観」が日本の漫画に強く影響している可能性が示唆されたかなと思います。一方でもっと研究できそうかな?と思ったこともまとめました。
漫画以外のエンタメ作品にも同じ傾向が見られるのか?(例えば、映画やドラマでも、漫画と同じ傾向がみられたりする?)
日本とアメリカの作品は互いに影響を受け、成長描写に変化が生まれているのか?(日本の作品の中には長くたくさんのファンを抱えている大作も少ないので、日本作品の影響を得たアメリカのコミックス文化に影響を受けていたりする?)
最近は、WEBコミックスという分野含めて、韓国の作品もかなり人気だったりするけど、日本やアメリカの作品と傾向が異なっていたりする?
今後、検証できるタイミングがあれば、ぜひトライしてみたいと思います。
書籍の概要

改めてとなりますが、今回の課題図書として読んだ本は 『これからの幸福について 文化的幸福感のすすめ』(2019年・内田由紀子著/新曜社)でした。もし興味を持たれたら、ぜひ読んでみてください。
まとめ
今回は、日本の漫画とアメリカのコミックスを比較することで、文化的な価値観が漫画のストーリーの構造であったり、キャラクターの成長にどんな影響を与えているのか、を検証してみました。
結果として「気持ち主義的人間観」が日本の漫画文化に浸透していること、そしてアメリカのヒーロー文化が色濃く反映されている傾向があること。
それぞれの要素をおさえていくことで、それぞれの作品の理解がより深めていけそうだと思いました。みなさんはどう思いますか?ぜひ折を見て教えてください。
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